あのとき離した手を、また繋いで。
近づくほどに、その水の綺麗さに圧倒される。
小さい頃よく行っていた近所の海がどれほど汚れているのかがわかる。
ごつごつした岩でできた足場の悪い坂を夏希に気を使われながら降りて、砂浜に足を踏み入れた。
柔らかいのがうわぐつ越しにもわかる。
体重をかけると沈み、中に細かい砂たちが入ってくる。
潮の匂いが鼻をかすめた。
「ここも夏希のお気に入りの場所?」
「うん。どう?」
「私も、ここが気に入った」
空のブルーと海のブルー。
水平線はどこまで目で追っても果てがない。
それぞれ色に違いがあって、よくわかるけれど、視界いっぱいの青が綺麗なことに変わりはなく、いつまでも目に焼き付けていたい。
海の満ち引きで流れ着いたと思われる大きな流木が砂浜にあって、そこにふたりで腰かけた。
春終わりの気温だからきっと、日陰のない太陽の下でこうしていられるのだろうな。
それでも暑いから長袖の制服の袖は、めくってある。
日焼けするかな……。
「いただきまぁーす!」
「……いただきます」
繋いでいた手を離し、お弁当を膝の上で広げ、ふたりで手を合わせて食べ始める。鳥が優雅に空を飛ぶ。
見えている景色が綺麗だから、コンビニのご飯も美味しく感じる。
「ねえ」
「ん?」
「……今日は、ありがとね」
お礼を言わないといけないと思った。
この場所には魔法がかかっているのかもしれない。
ここでなら、素直になれる。
ありがとうも、すんなり言えた。
「私、自分が世界で一番不幸なんじゃないかって思ってたところあったんだけどさ」
「ん」
「夏希のおかげでそれは違うって気づいたよ」