あのとき離した手を、また繋いで。



その、逆。今は、その逆のように感じる。


目の前にはこんなにも綺麗な景色が広がっていて、となりにはたったひとり、私のことを守ってくれた男の子がいる。


そんな私が、世界で一番不幸なわけ、ない。



「だから夏希」

「ん?」

「ありがとう」



目と目を合わせて、この心からの感謝が伝わるようにと願った。


たった5文字に、想いを乗せて。


そしたら夏希が顔を赤く染めて目線をそらすものだから、私は不思議に感じて首を傾げた。



「……その顔は反則だろ」

「え?」

「やっぱ笑うの禁止!」

「はあ?なにそれ、ひどっ」



さっきと言ってること違うんですけど。



「俺以外の男に微笑みかけないで、頼む」

「いや夏希にも微笑みかけてないけど……?」

「は?それ無自覚なの?逆にしんどい……」

「はあ?」



もしかして私、さっきからバカにされているのかな。


食べかけのお弁当に再び蓋をして、立ち上がると自分が腰かけていた場所に置く。



「モ、モナ?」



その声を無視してうわぐつと靴下を脱ぐと、波打ち際まで歩く。


砂が生ぬるい。だけど、海水が染み込んだところに足を踏み出すと冷たい。


しゃがみこんで海に触れると、手のひらに細かい砂たちが残る。


何度も打ち寄せてきては、引く海の波。そのさざ波の音に耳をすませる。



「モナ、怒ってる?」



腰を屈ませて、私の右斜め後ろにいる夏希の恐る恐るといった風な呼びかけ。


私はわざと顔をつくりかえて彼のことを目を細めて見た。


心配している顔。やばい、笑いそう。


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