あのとき離した手を、また繋いで。



たくさんの砂がついた手で、控えめに彼の頬に触れた。
そんな夏希の顔にもすでに砂がついていて、きょとんとしたようなその間の抜けた表情が、たまらなく愛おしい。


おかしいな、本当に。
嫌いだったはずなのに、どうしてこんなに胸の中、熱いもので溢れているのだろう。


沸々と熱されたものが、身体の中心あたりで暴れている。



「モナ」



呼ばれて、同様に夏希も私の頬に触れた。
潮風が吹き抜ける。
こんな真昼に学校を抜け出してやってきた田舎町の砂浜、なにを気にするわけでもなく座り込んで、お互いを熱い眼差しで見つめ合う。


現実にいるはずなのに、やはりどこか非現実的な感覚に包まれている。


そのまま、どちらからともなく、吸い寄せられるように、近づくふたりの距離。


触れた唇の温度は、きっと一緒だった。
柔らかい感触に胸が高鳴るのを感じた。


ゆっくり触れて、ゆっくり離れる。


指を繋いで、二度目のキスをした。


1秒1秒通り過ぎる時間が、永遠に続くような果てしない一瞬に感じる。


こんなに幸せな瞬間があるだなんて私、知らなかった……。



「モナ、俺……」

「…………」

「幸せすぎて、やばいかも……」



夏希のおでこと私のおでこがくっつく。
私の長い髪が風に暴れるのを、手で抑えた。


噛みしめる幸せに、なぜだか涙が溢れそうになる。



「私もだよ……」



マイナスの感情じゃないはずなのに、どうして涙が出てくるの……?
悲しくない。辛くないのに、涙って溢れるもの……?


繋がった気持ち、繋いでいるこの手を、絶対離したくない。


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