あのとき離した手を、また繋いで。


右側がすごく暖かい。
安心するぬくもりが心をも包み込んでいるような気になる。



「ーー……ナ、モナ、起きて」

「んん」

「ほら、見て」



肩を揺すられ、かすむ視界をクリアにしていく。
夏希に起こされて、目を開けると空も海も青かった景色が赤に変わっていた。


嘘……めっちゃ綺麗。


沈んでいく夕陽が海に投影されているその景色。あまりに美しい情景に、寝起きの目を見開かせることができた。


ふと右手を握る夏希の手に力がこもり、眠りに落ちる前も繋がれたままだった手がまだ離されていないことに気づく。


私も、視線を落としながら右手に力を入れた。



「モナ……?どうかした……?」


「帰りたくない」



戻りたくない、現実に、日常に。
明日からまた昨日と同じ明日を生きていくのが、辛い。


今がこんなに幸せだから、明日からの毎日が恐ろしい。



「大丈夫だよ。俺、モナのそばから離れない」

「絶対……?」

「ん、約束する。またふたりでここに来ような」



大きな目を真っ直ぐに見て、私は頷いた。
そして夏希の肩におでこを押し当てる。


「うん」


細身で華奢だと思っていた彼の身体は実は大きくて、きちんと筋肉がある。


関節が大きく、私のものとは違う手はすごく暖かく、優しい。


ねぇ、今日初めて発見した君のこと、たくさんあるよ。


おおらかで明るく人気者の君は、実は、怒ると怖い。
可愛らしい笑顔でいつもいるけれど、男らしくて、頼りになるね。


私のことを好きだと言う、君。
手を、絶対に離そうとしない、君。


ねえ、なんでこんなにも愛おしいのかわからないぐらい、好きが身体の中心から溢れてくるよ。


伝わってる?どうやったら伝わるの?


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