あのとき離した手を、また繋いで。
わからない。私、恋なんてしたことないから。
物心ついたときにはもうお母さんとお父さんは仲良くなかったから、心のどこかで"ああ、こんなもんなのか"ってずっと思ってた。
無垢なまま、キラキラした少女マンガのような恋に憧れていた時期もある。
けれど両親だって恋をして、愛しあって結婚して結ばれたはずなのに、結局離婚することになって、そんな幻想的な恋愛、この世にはないのだと心のどこかで諦めた瞬間があった。
よくドラマや映画でこんな台詞を耳にする。
『永遠に、愛することを誓いますか?』
『誓います』
真っ白な衣装に身を包んで、綺麗な教会で一生の愛を誓い合う男女。みんなに祝福されて、チャペルを出る。
けれど永遠なんてない。そんなもの、理想だけを語る夢見がちな人らが口にする嘘っぱちだって決めつけていた。
そう、思っていたはずなのに……。
私、夏希となら、永遠を夢見ることができる。
もしかしたらって、そんなことを今、考えている。
ただ盛り上がっているだけかもしれない。
ずっとひとりぼっちでいて、ずっと欲しかった理解者が彼だったから、こんなにも惹かれているのかもしれない。
だけど、なんとなく、違う気がする。
そばにいたいという素直な気持ちを心の井戸から汲み取ると、とても透き通った綺麗なものが浮き上がる。
君となら、永遠を信じてみようかなって思えるよ。
これがいっときの感情だというのなら、それでも構わない。
今はこの感情に溺れていたい。
静かなこの田舎町の海。波の音と風になびく木々たちが葉をこすり合せる音だけが聞こえる。
まるで世界にはふたりしかいないみたいな錯覚になる。