あのとき離した手を、また繋いで。
「帰ろうか」
「うん」
帰りたくはないけれど、それでもまたここに夏希と訪れる約束をした今は、しぶしぶだけど帰ろうかなという気になる。
立ち上がって夏希と目があって微笑むから、私もなんだか笑ってしまった。
「ここに来る前とは大違いだね」
「そう?」
「ん、可愛いよ」
「口説いてる?」
甘い言葉に冗談で返すと、夏希がまた一段と可笑しそうに笑った。
「うん、まあ、たぶんモナのことは一生口説いていくと思うから覚悟しといて」
口元に笑みをこぼして「わかった、覚悟しとく」と言った。
名残惜しいけれど海岸を後にして、元来た駅に行き、私鉄電車に乗った。
揺れる車両。すっかり暗くなって、遠くに見える家たちがともした小さな灯りをぼうっと眺めた。
家の最寄駅に着いて、夏希とふたりで降りた。
「夏希の家どこなの?」
「んー、学校の近く、かな」
「えっ、なんで降りたの!?このまま乗ってったほうが良かったじゃん」
「でももう夜だし、モナのことちゃんと送り届けないと俺の気が済まないっていうか」
なんだそれ……。
夜って言ってもまだ7時だよ?
全然ひとりで帰れるよ。
でも、その優しさが、嬉しい。
「ここ?モナの家」
「うん」
一年前両親の離婚が原因で引っ越してきたボロいアパートの前に到着。
途端に、もう離れないといけないんだって寂しさに襲われる。
今日一日で、夏希への想いが弾けとんだ。
こんなに好きになるなんて想像できなかった。
想像しようとも、してなかったのに。
「じゃあ、また、明日」
「うん……」
そう言うけれど、手を離そうとはしない夏希。
私からも、離すことができない。