あのとき離した手を、また繋いで。
ーーキーンコーンカーンコーン。
鳴り響くチャイムに、慌てて教室に向かった。
急いで教室に駆け込むと、先生はまだ来ていないようでホッと胸をなでおろす。
だけど少し遅れてクラスに入って来た私にクラスメイトから痛いほどの視線が注がれる。
……そんなに見なくてもいいじゃん。すこし、遅れたぐらいで。
心の中で毒づいて、居心地の悪い空気を全身でひしひしと感じながら自分の席に着いた。
「ギリギリセーフだったな!」
机の中からこれから始まる数学の教科書とノートを取り出していると、無邪気な声がとなりの席から飛んで来た。
私は肩を揺らして驚きながら"またか"と、かけられた声を大胆にも無視した。
「なにしてたのー?トイレー?」
「…………」
「大きいほうー?小さいほうー?」
……それ、女の子に聞くか、普通。
能天気なその声にイライラしながら、私は頬杖をついて窓の外に目線を投じた。
季節は春だ。4月がもう終わろうとしている。新学期が始まったのはつい昨日のことのように感じるのに。
校庭の脇にそびえ立つ桜の木のピンク色も、寂しくなってきている。
そのまま物思いに外の風景を見つめていると、
「ねえー、ねえー」
能天気な声がまた、かけられた。
こんなにもあからさまに無視しているのに、懲りずに話しかけてくる彼。私はイラつきを隠せずに、眉間にシワを寄せた。
「たーちーばーなー」
「…………」
「えっと、んー、じゃあ……モナ?」
「……!」
呼ばれた下の名前に反応して思わず彼の方を見てしまった。ぶつかる視線にドキッ!と胸が高鳴る。
それに嬉しそうに顔を緩ませてニンマリさせて「ふふふ、ようやくこっち向いてくれた」なんて笑って喜んでいる彼。
肩の力が抜けるようだ。