あのとき離した手を、また繋いで。
自然と目線が上をいく。おかしいな。私ずっと下ばっかり向いていたはずなのに。
昨日はじめて訪れた田舎町で見た空と比べると見劣りはするけれど、昨日の朝よりは綺麗に見える。青色が澄んでいるの、不思議なぐらい。
空を見る習慣なんてなかったのに。
夏希の影響かな。
***
「おはよう」
「はよー」
周りの人達の挨拶をよそに、昨日履いて帰ってきたうわぐつを袋から取り出して、今日急遽履いてきたいつもは使わない運動靴をその袋にしまった。
ほんと、よく昨日はうわぐつで1日過ごしたよ。アクシデントとはいえ。汚れたうわぐつを昨夜洗って、乾くか心配したかれどどうにか間に合って安心。
「…………」
教室までたどり着いて扉前で立ち止まる。
小さく息を吐いて、さあ行こうと一歩を踏み出そうとしたときだ。
「あ、橘さんじゃん」
名前を呼ばれて、振り返る。同じクラスの水無瀬(みなせ)くんがそこにはいた。確か下の名前は努(つとむ)だったと思う。
黒髪で背が高く、姿勢がいい。爽やかな面持ちをしているし、誰にでも優しいから夏希と同じぐらい女の子から人気だということは知っている。
突然のことで呆然としていると「昨日ナツと学校抜け出してどこ行ってたの?」と問われて瞬間的に顔が熱くなる。
「あれ、その反応はなにかあった?」
「な、なんでですか……っ」
「え、嘘、橘さんってそんなキャラ?もっとクールビューティーかと思ってた」
可笑しそうに笑う彼に、たじたじになってなにも言い返すことができない。
自分のことをクールビューティーだとは1ミリも思ってない。けれど、この顔の熱のこもり方からして、私の顔が赤いのは自分でもわかる。