あのとき離した手を、また繋いで。



なにがそんなに嬉しいの……。



「モナって呼ばれたほうがいい?」


「……よく、ないし」



目線をそらしながら控えめに声を出すと、さっきまでの勢いはどこかへいったように彼が黙るから、気になって見ると口元を手で隠して瞳を輝かせている。


不思議に思って首をかしげたら「喋ってくれた……!」なんて感激したように言うから、面食らって、恥ずかしくなって、顔をそらした。


なんだこの人!絶対私のことバカにしてる!

……ああ、もう、絶対喋ってやんない……!!


そう心に決めたとき丁度先生が額に汗をにじませながら「遅れてすまん」と教室に入ってきた。


その後もとなりの席から熱い視線をひしひしと感じたけれど、堂々と無視を続けた。


彼の名前は緑川夏希(みどりかわなつき)。
今年はじめて同じクラスになった男の子だ。


大きな垂れ目と、左目の下に泣きぼくろがあるのが特徴。


彼の名前は1年生のときから知っている。
だって彼は友だちがいない私にも情報が入ってくるほどの人気者なのだ。


誰とでもすぐに仲良くなってしまうフレンドリーな性格でクラス替え初日にはもうクラスの中心にいたし、彼の周りはいつも人で溢れている。


男女問わずに人気だ。
飾らない仕草や態度。誰にでも優しく接する姿はやはり目を惹く。


いつもひとりでいる私にすら、毎日変わらずに話しかけてくる。
"おはよう"から、"また明日"まで、毎日欠かさずにだ。


一貫して無視を貫き通しているのにも、関わらず。


私はそんな彼のことが苦手だ。だって私と正反対の人だから。


明るくて、天真爛漫で、人気者なのにそれを鼻にかけている様子もない。


ありのまま生きていることがダイレクトに伝わってくる。


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