あのとき離した手を、また繋いで。



送信されたのを確認して私はいつもの手順を踏んで家を出た。
朝の澄んだ空気を深く吸い込むと、吐き出した。
もうすぐで夏がくる。


今年の夏はいったいどんな夏になるのだろう。


大好きな人がそばにいる。
きっと、楽しくなるに違いない。



「おはよう」

「おはよう、清水さん」



昇降口で清水さんに声をかけられた。
笑顔で私のとなりに並んだ彼女に私もつられて口角をあげる。



「昨日はどうだったのー?」

「んー、楽しかったよ。夏希には怒られたけど」

「そりゃそうよねぇ。あんなんでも一応男だし?」

「あんなんってなんだよ」



会話をしながらうわばきに履き替えていた私たちに割って入るようにやって来たのは水無瀬くんだった。



「地獄耳ね」

「お前の声がでけーんだよ」

「はーん、今日もいちだんとムカつくー」



清水さんがすこし怒ったように大股で先に歩いて行く。
ひじで水無瀬くんのことを軽くつつくと「ああ、またやっちまった」と顔を手で隠していた。


くせになっているのかな。この痴話喧嘩。
清水さんも意地はっているような気がする。
はたから見ていてそう感じる。


ふたりはすごく似ていてお似合いなのに、もったいない。



「モナちゃん」



いきなり呼び方が"橘さん"から"モナちゃん"に変わって驚く。



「俺の恋のキューピッドになってね」



顔を近づけられて懇願されて、戸惑いながらも頷いた。


私にできることがあるなら……。


私だってはじめて恋をしたばかりで、恋愛初心者なのに、できることがあるとは思えないけれど。



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