あのとき離した手を、また繋いで。



「おはよー」

「はよぉ」



ふたりと共に教室に入った。
友達の多いふたりに挨拶をするクラスメイトたちがたくさん。
自分には関係のないことだと真っ直ぐに席に向かった。


となりの席には夏希が座っている。
眠たいのか、机に突っ伏して眠っている。
音を立てないように席についた。


やがてチャイムが鳴る。先生が教室に入って来て、出席を取る。
夏希の順番が来る前に起こそうと思っていたのだが、かなり熟睡しているようで、ゆすっても起きない。



「緑川夏希。緑川ぁー?」



先生が呼んでも返事のないことを不思議に思ったクラスメイトたちが夏希に視線をそそぐ。


またか、と、呆れた様子の先生が夏希の真横まで歩み寄った。



「みーどーりーかーわー!!」

「……っ、わあぁ!」

「学校は睡眠をとるところじゃないんだぞー!」

「す、すみません……」



飛び起きた夏希は頬に、枕にしていた腕の制服のシワのあとをくっきりつけたまま先生に頭を下げていた。


すこし前の私だったら、馬鹿だなぁと夏希のことを横目で見ていたはず。だけど今はちがう。



「ふぅ、怒られちった」



ようやく説教から解放された夏希が席に座る。目が合うと「おはよう」と微笑まれて、胸が可愛らしくキュンと音をたてた。


私も「おはよう」と返すと、ドキドキする胸をおさえて、先生の話に耳をかたむける。


ふと見た窓の外の空は綺麗な青色だった。
自然と笑みがこぼれた。


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