あのとき離した手を、また繋いで。


昼休みになった。
私と夏希は屋上で昼食を食べていた。


騒がしい学校内。それでもここではふたりきりの世界にいるように、心なしか静か。ふたりきりでいるこの時間がたまらなく愛しい気持ちになる。


私、変なの。
あんなに目に見えない感情を信じていなかったのに、今はこんなにも夏希のことが好きで好きでたまらない。


この芽生えた気持ち、ずっと大切にしていたい。



「ふぁあ〜」

「眠いの?」

「ん、ちょっとな」

「寝る?」

「ん」



会話の自然な流れで夏希の頭が私の膝の上に乗った。
夏希の柔らかい髪の毛が肌に触れてくすぐったい。

そしてすこし恥ずかしい。いや、すこしじゃなくて、だいぶ。



「モナ、いい匂い」

「えっ」

「あー、俺、いま世界でいちばん幸せ」



それは私のセリフだった。
夏希に恋をするまでは、自分が世界でいちばん不幸なやつだとひねくれていた。


でもちがう。私は間違いなく、幸せものだ。


だって、夏希と出会えたのだから。


夏希が私の手を握る。私はその手を掴んで握った。手を繋ぐかたちになる。


この手、絶対離したくない。


夏希が私のことを好きでいてくれる。
私も、同じようの夏希のことが好きだ。


世界にはふたりしかいらない。
ううん、私たちの世界にはふたりしかいないよね?



「モナ」



名前を呼ばれて唇が塞がれる。
かぶりつくように下からキスをされた。
幸せに浸りすぎて涙があふれるかと思った。


溺れる。君に、君の愛に。



「夏希、愛してる」

「ん、俺も」




……だから、他にはもう、なにもいらない。




< 57 / 123 >

この作品をシェア

pagetop