あのとき離した手を、また繋いで。
それでも好きはなくならない
夏希と付き合い出して1ヶ月半が経った7月の上旬。
季節は夏になった。陽射しは強く熱く、風は生暖かい。
……また、だ。
登校してきてすぐ、下駄箱に入れておいた上靴が濡れていることに気づく。
こういう嫌がらせが、夏希と付き合いはじめてから増えた。
犯人は、わかっている。
警告されているんだ。
嫌がらせをされたくなければ、夏希と別れろって、そう遠回しに言われているのだ。
それでも夏希と離れるつもりはない。
耐えればいいだけ。
私がひたすら我慢して、夏希のとなりにいればいいだけ。
そうしたらきっと、黒木さんもいつか諦めてくれるはず。
「あれ、またスリッパ?」
教室に入るとすぐに気づいてくれたのは清水さんだった。
あれから清水さんとはなにかと一緒にいることが増えた。友達と呼んでいいのかはわからない。
一方的な勘違いだったら恥ずかしいので言えないし、聞けない。
「……昨日の夜洗ってたら乾かなくて」
「夏だよ、乾くでしょ」
「思い出したのが夜中だったから」
言い訳が苦しすぎる。
だけど一度ついた嘘はつき通さなければならない。
なぜなら真実で傷つく人がいるから。
きっと夏希は優しいから、幼なじみである黒木さんが私に嫌がらせしていることを知ったらショックを受けるだろうし、自分を責めると思う。傷つけちゃう。
それが予想できるぐらいには、夏希と仲を深めたと自負している。
「それ本当?」
「こんなこと、嘘つかないよ」
清水さんはかんがいいから、悟られないか心配になる。
そして厄介なのは彼女の他にもうひとりいる。
「ドジだね、モナちゃんも」
それは水無瀬くんだ。