あのとき離した手を、また繋いで。



いいの。私は。夏希に好きだと言われたあの日、本当に救われたから。


はじめて好きになれた男の子の恋人でいられるいまの時間を大事に過ごしたい。



***



また、だ。ない。


体育の時間、体育館から戻って制服に着替え終わったとき、自分のペンケースがなくなっていることに気づいた。


移動教室のときを狙ってるのがこの教室にある誰かじゃなくて、私のことを妬んでいるであろうあの子の犯行を物語っている。



「…………」



ドクドクと心のなかに黒い感情が溢れ出てくる。
もうそろそろこの無意味な嫌がらせをやめてほしい。


無意味、じゃ、ないか。
案外私も普通の女の子なのかもしれない。


夏希と付き合いはじめて1ヶ月半。
その間ずっと間隔は空いていたけれど、ずっと嫌がらせされてきた。


辛い、な……。



「モナ?どうかした?」

「っ、なんでもないよ」

「そう?」

「うん、トイレ行ってくるね」



その場を離れる。
すると私のあとを追いかけてくる足音が聞こえてきた気がして振り返った。



「水無瀬くん」



名前を呼ぶと「これ、必要でしょ?」と差し出したのはシャーペンと消しゴムだった。
息が止まる。手元のそのふたつのアイテムを見つめたあと、再び水無瀬くんの顔を見た。



「ほんとはさ、気づいてた」

「うん」

「今日一緒に帰ろう。話、しよ?」

「わかった」



シャーペンと消しゴムを受け取って、スカートのサイドポケットに入れた。水無瀬くんは教室に戻って行った。


私はトイレへと向かった。


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