あのとき離した手を、また繋いで。


堂々と言い放った黒木さんの目を真っ直ぐに見る。彼女も同様に私から目をそむけない。その力強い目線にはなにか覚悟のようなものが垣間見れる。



「橘さんにも言っとくね。噂で知ってるかもしれないけど、私、小さい頃から心臓が弱いの。学校も休みがちでさ。もう長く生きられないことはなんとなくわかってたつもり」



病気のことを話されているのが嘘のようにどこか清々しく話をされる。



「この前余命宣告、された。あと3年もつかわからないって、病院の先生に言われたの」

「……っ……」

「夏希にも言った。私の一生のお願いも、した。……橘さんと別れて、私と一緒にいてほしいって」



のどもとをぐっとなにかで縛られているみたいに痛む。黒木さんの瞳からは涙が一筋流れている。


……あぁ、そっか。
だから夏希はあんなにも悩んで考えこんでいたんだね。


大事な幼なじみが余命宣告された事実。
それから告白されて、きっと、私と黒木さんの狭間で迷い苦しんでいるんだ……。


夏希の後ろ姿が頭のなかで浮かぶ。


君はいま、誰のことを想っていますか?
たぶんそれは、私のことじゃ、ないんだろうな……。



「いままでのこと、ごめんなさい。私、たくさん橘さんのこと傷つけた。夏希があなたのこと好きだって知ってから、取られるって焦っちゃって……橘さんのデタラメな噂も、私が流した……っ」



たぶんそうだろうなって、心のどこかで思っていた。
ハチャメチャでデタラメな私の噂は、私に悪意のある人がつくりあげたものだったんだ。


ずっと、ずっと苦しめられていた。
噂をつくりあげた犯人が目の前にいるのに、とても責め立てる気になれない。


それよりももっと大事なことがある。


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