あのとき離した手を、また繋いで。


そして本日最後の授業は体育だった。
だだ決められた時間でグラウンドを走るだけの持久走。


寒いなかで行われる持久走は生徒からはかなりの不人気を誇っている。



「だるいねぇ」

「寒いしね」



清水さんと交わした会話。吐く息は白い。グラウンドの土と空気は乾燥していて、とても冬らしい。


チラッと男子たちがいるほうを見た。


夏希はぼうっとしている。普段通りの彼なら、きっと寒さにも負けずみんなのことを盛り上げていただろうに。



「位置について、よーい、スタート!」



ストップウォッチを持った先生が吹いた笛の音とともにスタートが切られた。


ふたりひと組みでペアをつくってそれぞれ何周できたかを数え合う。


私はペアを組んだ清水さんの走りを眺めながら、ほかのクラスメイトたちと固まってグラウンドの端っこで座っていた。


これが終わったら走らなきゃいけないのか……。


ため息を吐いていると、夏希が走っている姿を目にする。


顔色がよくない。青白くて、不健康そうだ。
あまり寝れてないんじゃ……。



「夏希……っ!」



そのときだった。
夏希の身体が地面めがけて倒れていったのは。


あまりの出来事に思考回路が追いつかずに、ただ本能のままに夏希のもとまで走って行った。


だるそうに顔をしかめて、額にはたくさんの冷や汗がある。意識はあるようだった。水無瀬くんが夏希を抱えて、保健室まで連れて行くことになった。


先生からは「水無瀬くんに任せて他の人は授業を続けます」と、騒然としていたクラスメイトの雰囲気を無理やりかき消した。


私も水無瀬くんについて行こうとしたが、先生に止められた。


心配で、授業どころじゃないのに……。


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