あのとき離した手を、また繋いで。
結局夏希のところへお見舞いに行けたのは放課後になってからだった。
夏希のかばんと制服を預かっていた。
保健室の扉の前に立って小窓から中の様子を伺う。でもベッドのある区画はカーテンで仕切られているみたいで、ここからじゃよく見えない。
「失礼しまぁす……」
恐る恐る中に足を踏み入れてカーテンの前に行くと「夏希?」と声をかけた。
「モナ?」
「入るよ?」
カーテンをすこしだけ開けて中に入り込むと、夏希が慌てて上体を起こした。
「無理しなくていいよ?」
「ううん、大丈夫」
「……これ、かばんと制服」
「ん、ありがとう」
ベッドのうえに夏希の荷物を置いて、パイプ椅子に座る。この前と逆だ。前は私がベッドのうえにいて、夏希が椅子に座っていた。
「もう平気なの?」
「うん、すこし寝たら頭スッキリしたから」
「……あんまり寝れてなかったの?」
「んー、まあ、そんなとこ!」
無理して、笑っている。それが、わかる。
目の下のクマが濃く出ている。
「夏希……」
「ん?」
言うか、言わないかを、すこしだけ悩む。
それが3秒だったのか、10秒だったのか、それとも1分以上だったのかはわからない。
「聞いたよ、黒木さんの病気のこと」
でも言わないままじゃ、きっと壊れてしまう。
夏希の心も、私たちの関係も。
……そう、思っていた。
「……え?」
ーーだけど、違ったんだ。
夏希の目からボトボトと落ちるいくつもの涙の粒を見て、言葉を失う。