あのとき離した手を、また繋いで。


「あっれ、おかしいな……っ、なんで俺泣いてんだろ……っ」

「夏希……」



夏希の心はもう、壊れてしまっていたんだ。

遅かった。なにもかも。

気づくことが、できなかった。


自分自身が泣いていることにいちばん驚いている。そんな風になるほど、夏希は、思いつめていたんだ。


眠れずに、倒れてしまうほど。


優しくて、頑張り屋さんな、君だから。


夏希には大切なものが多すぎるんだ。


家族、友だち、幼なじみ、恋人……。


そのどれもを全力で大事にするから、身体を壊したんだろう。



「ごめん、俺……っ」



こんなにも弱々しい姿の君。守ってあげたい。ずっとそばにいて、支えてあげたいと本気で思うよ。でも……。



「夏希」



……ねぇ、夏希。



「もう苦しまなくていいよ。……別れよう」



これが私たちの"正解"だと思うんだ。


お互いが好きでも、想いあっていても、ずっとそばにいたいと思っていても、


もう、無理だよ……。



「ちが……そんなの俺……っ」

「大丈夫だよ。私はもう、ひとりで生きていける」



もう十分だよ。
だからもう苦しまなくていいんだよ。


黒木さんのこと、見捨てられないんでしょ?



「夏希のおかげで強くなれた。本当の私を見てくれる人がいるって知ることができた。だから友だちだってできたんだよ」



もう、ひとりじゃない。
夏希が隣からいなくなっても、私はひとりじゃない。


すべて君が、夏希がくれた宝物だよ。



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