あのとき離した手を、また繋いで。
違う。
もともと明るい人間だったわけじゃない。
最近の私はすこし変なのだ。
テンションが迷子になっていて、ときどきちょっとしたことが笑いのツボに入って笑うことを止められない。
でもふとしたとき、そのときのことがたまらなく嫌で嫌でたまらなくなる。嫌悪感がする。
どうして笑っていられるんだろう。
どうして私は、大切な人がとなりにいなくても、笑うことができるんだろう。
そう考えるとすごく、すごく胸が痛くて、涙があふれてくる。
ううん、違う。わかってる。本当は全部わかってる。
君がいなくても大丈夫なんて、見栄をはっているだけだ。
学校で笑うのも、ちょっとしたことで大笑いすることも、わざとだ。
夏希への当てつけだ。夏希がいなくても、私は笑えるんだぞって、そう遠回しに嫌味っぽく伝えているだけ。
私と別れてすぐ黒木さんと付き合いだした夏希は、同学年の生徒たちから反感を買っていたりする。
私を擁護する人たちと、私とようやく別れたかと安心したのに次は黒木さんかと落胆するものもいる。
感じ方は人それぞれみたいだが、私と別れてからの夏希はどこか大人しくなった。
クラスの中心にいることは少なくなり、あまり笑わなくなった。
仲のいい男子たちと笑って話していることは増えたけれど、以前のように周りを自然と笑いのうずに巻き込んでしまうような圧倒的なオーラは消えた。
それはどうしてなのかは、もう、わからない。
あれから夏希と私はいっさい話をしなくなった。
それでいいと、私は思っている。
こうやって距離ができて、忘れられたらそれでいい。
夏希への気持ちも、捨てきれない思い出も。
切なくなる感情さえ、いつかなくなってしまえばいい。
そう思っている。