あのとき離した手を、また繋いで。


なんとなく清水さんと話しながら時間を潰していると、チャイムが鳴り、先生が教室に入ってきて朝のホームルームが始まった。


ふととなりの席を見ると誰も座っていないことに気づき首をかしげた。


となり、誰なんだろう……?


そんなときだった。閉まっていた扉を勢いよく開けて、ひとりの男子生徒が教室に入ってきた。



「おーい、進級早々遅刻かー?」

「…………」



悪い目つきで先生のことを見てめんどくさそうに金髪の髪をかきあげながら「……すみません」と、心にも思ってなさそうな謝罪を口にした。


見たことある、かも……。


同じ学年なのだから見たことないほうがおかしいのだが、彼は"特殊"だった。

一言でいうと彼は1年前の"私"だ。


去年となりのクラスだった男の子で、名前はたしか……。



「桐生、早く席に座りなさい」



そうだ。名前は桐生雄介(きりゅうゆうすけ)だ。
彼にまとわりつく噂でいいものはひとつもない。


噂通りでいうと、喧嘩ばかりしている不良で血の気の多くて近づくと危ない、とか。
夜の街で働くド派手な年上の彼女がいる、とか。


その噂たちはまるで、1年前夏希と仲良くなるまでの私とよく似ている。


私の噂は夏希と付き合いだしてからじょじょに消えていった。

夏希が黒木さんと付き合いだしてからはなにも音沙汰がない。


たぶん発信する人がいないから風化されたのだと思う。



「…………」



私のとなりに腰をおろした彼。無意識に見つめていたようで「あ?」と鋭く睨まれる。


顔を左右に振るとめんどくさそうに表情を歪め、頬杖をついて前に向き直った。


この人がとなりの席だなんて……。


無愛想だし、かもしだされている雰囲気は怖い。


噂を完璧に信じてるわけじゃない。


でも、すこし意識してしまう。


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