あのとき離した手を、また繋いで。
……なんて。ダメだ、こんなの。
私だって噂のせいで受けた風評被害にはうんと悩まされた。
もしかしたら、噂とは真逆の人の可能性だってあるわけだから。
ちゃんと自分の目で確かめよう。
彼がどんな人なのか。
夏希が、私のことをちゃんと見ていてくれたように。
……と、思っていたのだけど。
「なあ」
クラス替えがあって2週間が経った。外の桜は散り終え、春らしさといえば過ごしやすい気温だけとなった。
4時限目の授業が終わってすぐ一息ついて身体を伸ばしていると、となりの席に座る桐生くんが低い声をだした。
「……なに?」
「なんでお前、俺のことそんなチラチラ見んの?」
「は、はあ?」
いやいや、見てないし。
なに突然。意味わかんない。
「ふぅん?てっきり俺に惚れたのかと……」
頬杖ついて挑発的な目線を送ってくる彼に、私のなかで怒りメーターがあがっていく。
「ふざけんな。あんたみたいな男なんて嫌いだし。それに好きな人だってちゃんと……っ」
「へぇ、好きな人いんだ?」
やらかした。口を、滑らせた。
なんで夏希の顔が浮かぶんだろう。
考えないように、考えないように、ってそう常々意識しているのに。
こんなムカつくやつに傷口をほじくり返されたみたいで、すっごくムカつく。
「……最低」
「はあ?」
「最低最低!あんたなんて大っ嫌い!」
大雑把に持っていたノートや教科書を引き出しにしまって、廊下に出ようと立ち上がる。
「ど、どこ行くの、モナちゃん」
「トイレ!」
いつも通りお昼を一緒に食べようと迎えに来てくれた清水さんに乱暴に答えて廊下に出た。そのときだった。
誰かとぶつかって、尻もちをつく。