長い夜の終わりにキスを



一体いつ部屋まで来たのかしら...と思いながらモソモソとベッドを出る。

腕をぐ~っと上に伸ばして眠気をある程度吹き飛ばすと、ガラリとクローゼットの扉を覇気なく開けた。

そして薄いTシャツとその上に着るトレーナー、そしてショートパンツを取り出すと、パジャマを脱ぎ着替え始める。

それにしても、母が来たのに気づかないほど睡眠の闇にもう一度沈んでいた、ということを思い出し少し不思議に思う。

「...いつにもまして、今日はよく寝てたわね。」

丁度トレーナーに首を通して最後に、パジャマのズボンを下ろし、動きやすいショートパンツに履き替える。
その時あることを思い出した。

「...あ、そういえば今日の夢って...。」

__アベル君に初めて会った日のことだ。

ショートパンツに履き替え終わると、今度はドレッサーの前に。

それにしても、...どうしてアベル君と初めて会った時のことなんて思い出したんだろう。

頭の中にその疑問が浮かぶ。ーーだが、その疑問はすぐに解決された。

その疑問を解決したのはドレッサーの上に置かれている時計。その時計は時間だけではなくカレンダー機能も備わっている。

腰まである真っ白な髪に櫛を通しているとふと、今の時間が気になりその時計に目をやった時に気が付いた。


「...あ、今日は、アベル君と出会って...丁度一年ね。」
__そう、今日4月10日は、

一年前、私とアベル君が出会った日ーー詳しくは死にかけていたところをアベル君に助けてもらった、九死に一生を得た日。





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