愛し紅蓮の瞳
そして、


「蘭」


さっき初めてあったばかりなのに、我が物顔で私の名前を呼ぶと、私の前でピタリと足を止めた。


同時に部屋の中はザワザワと騒がしくなって、光蓮様は驚いたように目を見開いている。



「来い」


「え?」


それだけ呟いた紅蓮は、私の腕を掴むとそのまま私を小上りから引きずるように降ろして再び小上りにクルッと背を向けた。


ちょ、ちょっと待ってよ!
足がもつれる、転ぶ転ぶ!!


強引に私の手を引いたまま、光蓮様の前に向き合うように腰を下ろして座る紅蓮をムッと睨んでみても、私の事なんて見やしない。


本当やだ、乱暴。
ちょっと待って、この男、ほんとやだ。


もちろん、私も何が何だか理解する間もなく、腕を引かれるがまま紅蓮の隣に座ったけれど、これから紅蓮がいったい何を言い出すのか気が気じゃない。



「ねぇ、ちょっと」


「父上、お話があります」


私の声なんて聞こえちゃいない紅蓮は、光蓮様へ頭を下げながら続ける。あの堅苦しい言葉で。




「父上。……蘭を、我が妃として東雲家に迎え入れたい」


「……は?」



……さっきも紅蓮の部屋を出る時に言ってたっけ。



あの時は楓さんにやんわりと話を変えられて、バタバタと部屋を後にしたけれど。
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