愛し紅蓮の瞳

淡い恋心

***



「これ!蘭様〜!!」

「見逃して、多代さん」

「なりません!これからお裁縫の稽古です」

「裁縫なんて必要ないない!」

「紅蓮様が戦地から戻られたとき、お着物が破れていたらどうするんです?妃になろう御方が、まさか他人任せになさる気ですか!?」


妃の座を巡る争いが幕を開けて早いもので一月ほど経ち、私は毎日、付き人の多代さんと戦争を繰り広げている。


「そもそも、戦地になんてそう行かないよ」

「何を仰っているのです!紅蓮様は毎日、東州の見回りをなさっておられます。時にはお怪我をして帰ることも少なくありません!」

「……え?そうなの!?」

「鬼の力が宿っているとは言え、生身の体に怪我は付き物!手当をするのも、破れたお着物を縫うのも、紅蓮様を癒して差し上げるの!全て蘭様のお役目になるのです!もう少し自覚をお持ちになって下さい」


多代さんは、東雲家が誇る教育係らしく。

御歳75歳の大ベテラン。
紅蓮や睡蓮様、姫蓮ちゃんはもちろん、光蓮様や双葉様の教育も担当されたとか。

……そりゃもう、怒ると鬼のように怖いんだ。
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