愛し紅蓮の瞳
「多代さんは、勝てると思ってる?」

「…………」

「涼音さんって完璧なんでしょ?良家育ちだし、一からまなぼうとしてる私なんかよりもずっと、妃に相応しい方なんじゃないかな」


競うだけ、無駄……。

そう言ってしまえば、何だか虚しいけれど。

私が毎日やっている料理の勉強、裁縫、着物の着付け、言葉遣いに、立ち振る舞い、掃除、洗濯、その他諸々の稽古は全部、


もしかして最初から無意味なものなのかもしれない。



「蘭様?だからこそ、私が貴方様を教育しているのです!誰だって初めからなんでも出来るわけではありません。今からだって十分に勝ち目はあります」

「多代さん……」

「ただ、蘭様に勝ちたいと言う気持ちがあれば、の話ですが」


───ドキッ



私を射抜くように見つめる多代さんは、私の心に迷いがあることに気づいているのかもしれない。


「並大抵のことではありません。三代目の妃になると言うことは、東雲家を背負うも同然。……半端な気持ちなら、やめてしまいなさい」

「っ、」


私に背を向けスタスタと歩いて行く多代さんの後ろ姿に、何だか泣きそうになる。


本当に、多代さんの言う通りだ。
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