狂愛彼氏
丁度帰り道の方向だったから、私は、二人に手を振って、疾風さんに近づく。
私に気付いた疾風さんはタバコの火を消した。
「疾風さん」
「帰るのか」
「はい。ありがとうございました」
きっともう二度と会うことはないだろうからお礼も兼ねて、頭を軽く下げた。
「一人で帰るわけ?」
「近いので」
じゃあ、と疾風さんの横を通り過ぎようとすると、腕を掴まれた。
「ゎ……疾風さん?」
ぐっと引っ張られて疾風さんを見下ろすと、疾風さんは何も言わないままあっさりと手を離し、私の前を歩き出した。
「…………?」
疾風さんの行動が理解できなくて首を傾けると、先に歩いていた疾風さんが振り返る。
「はやく来い」
「あ……はい」
咄嗟に返事したけど、直ぐに首を傾げる。
疾風さんの側まで駆け足で行き、見上げる。
「あの、」
「………送る」
「え、いいですよ?」
本当に近いので、と断るけれど、疾風さんも頑固みたい。
どうしようかな、と思っていると、疾風さんから意外な言葉が発せられた。
「………何かあったらどうする」
「……」
疾風さんの口からまさかそんな言葉が出てくるなんて、驚きだ。