狂愛彼氏


変わらない表情だけど、瞳に映るのは………苛立ち?


「何がお前をそんなにするんだ」

「………言ってる意味が分かりません」


嘘、本当は分かってる。
疾風さんが何を言いたいか。
でも、その問いかけに私は答えられない。答える言葉がないから。


(私だって、知りたいよ)


何が私をこうしているのか、自分のことが分からない。


「………遥」


名前を呼ばれても、私は反応しなかった。ただ、ケーキを食べる。


疾風さんも諦めたのか、黙って珈琲を飲み続けた。


大好きな、甘いケーキであるはずなのに、食べたそれは全く甘さを感じられなかった。







―――――――――
――――――


「………ここです」

「……あぁ」


私のマンション前。
あれからここまでお互いに会話は一切なかった。
ケーキを食べ終わって、お礼を言って一人で帰ろうとしたけれど、いつの間にか、疾風さんに送られる形になっていた。


「ありがとうございました」


今度こそもう二度と逢うことはないだろうから、頭を下げる。
最後は印象よく終わりたいものだ。


(笑えないけど)


それじゃ、と疾風さんに背中を向けた私は、マンションの中に入ろうとした。


「遥」

「?」


呼び止められて振り替えると、疾風さんが私に近づいてきた。


「携帯、かせ」


手を差し出す疾風さんに私は、首を傾ける。


「どうしてですか」

「いいから、かせ」

「………」


命令口調に釈然としないまま私は、携帯を差し出した。

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