狂愛彼氏
まるで疾風さんの視界には私しか映っていないかのように真っ直ぐ脇目もふらず歩いてくる。
「―――遥」
「………こんにちは」
昨日より低めの声が私の名前を呼ぶ。
軽く頭を下げる。
斜め横で愛麗のニヤついた顔が見える。
「……化粧、したのか」
「、まぁ、」
「お前か?」
ギロリと私ではなく愛麗を睨む疾風さん。愛麗はニヤついたまま、そうですよと答える。
「疾風さんのため仕様です」
「………」
「好きにしてどーぞ。」
では、あたしは帰りまーすとスキップをしそうな勢いで呼び止める暇なく愛麗は帰ってしまった。
(愛麗の、馬鹿ー!)
心の中で罵倒する。
ポツンと残された私は、俯いたまま顔を上げることが出来ない。
「………遥」
「はい」
「行くぞ」
疾風さんは、急ぐように私の手を掴むと歩き出す。
「…………」
「…………」
お互い、無言。
軋む位に握られた手が痛みを訴え始める。
話しかけようにも、疾風さんの背中が話しかけるなと言っているようで黙ったまま。
(気まずい………)
軽くため息をつく。
学校から出ると、疾風さんは駐車場に向かって一台の車に私を押し込んだ。