狂愛彼氏
「わ……」
バタンと思いっきり閉められて車が揺れる。疾風さんは直ぐさま運転席に乗り込むとエンジンをかけた。
ガシャンと鍵が閉められて、逃げられない。
「シートベルト」
「……はい」
言われた通りにシートベルトをはめる。それを確認すると、疾風さんは車を発進させた。
車内には割りとアップテンポな曲が流れているのがせめてもの救いだ。
無言に沈黙は………耐えられない。
横目で顔を窺うと先程より多少は軟化されている様子。
(聞きたいことあったのに)
これじゃあ聞けないじゃないか。
ため息をつきそうになった時、急に疾風さんは沈黙を破った。
「お前がやりたいっていったのか」
「?」
「化粧」
車が左に曲がる。
疾風さんの質問に私は、首を振った。
「私の意志ではないです」
愛麗がした。
愛麗の話しに聞き入ってるうちに化粧がされていた、それだけ。
別にしたかったわけじゃないし。
化粧なんて面倒。だから私は、いつもスッピンだった。
「………そうか」
私の答えを聞くと、うってかわって優しい声になった。
何故だかわからないけど、機嫌、よくなったのかな。
「………似合いませんよね」
私は、苦笑する。