狂愛彼氏
(警戒心……?)
警戒心なんて持つ必要ないんじゃないの?
だれも私のことなんか見る人もいないし、気にも留めないと思う。
そう言おうと思ったけれど、また何か言われそうだから止めた。
それより、私は気になっていることが一つあった。
機嫌も少しはよさそうだし、勇気を振り絞って聞いてみることにした。
「何処に行くんですか?」
「……着けば分かる」
「はぁ……」
「それ、止めろ」
「?」
曖昧に返事をすると、怒られた。
気分を害したか、と思ったら、疾風さんが怒った部分は返事の所じゃなかった。
「敬語」
「ぁ、」
(そっち?)
心の中で突っ込む。
「でも、疾風さん年上だし」
「気にしない」
「でも・・・」
「でも、じゃない。それとついでに、名前」
「名前?」
「さん付けしなくていい」
なるほど、そういうこと。
本当は、年上だし敬語のままにしておきたいんだけれど、疾風さん本人が許可するならいいかな。
もしかしたら、敬語が嫌いな人なのかもしれないし。
あれ、敬語って嫌いな人いるのかな?
ふと頭に浮かんだ疑問がグルグルと渦巻く。
でも、考えていても拉致があかないので、その疑問は頭の隅に置いておいて疾風さんの言う通りにすることにした。
「………分かった」
「あぁ……」
疾風さん――疾風が頷くのを確認すると、私は、顔を左に向けて外の様子を窺うことにした。