狂愛彼氏
離れていく女の背中に、俺は、無意識の中呼び掛けていた。
『おい!』
『?』
女が肩越しに振り返る。
なに、と目だけで訴えられた。
『名前!』
名前を教えろ、と叫ぶと、女は心底不思議そうな顔をしながら小さくボソリと呟いた。
『………遥』
『遥?』
『………』
それ以上遥は答えることなく、マンションに入っていった。
『遥………はるか、か』
刻み付けるように呟きながら俺は、バイクを走らせた。
また会えることを願いつつ、部屋に入った瞬間、遥が倒れたのは勿論知る由もなかった。