狂愛彼氏
いっそのこと、帰っちゃおうかなー、なんて考えていると、ガチャッと後部座席のドアが開けられた。
「………ぇ」
「乗れ」
低い、不機嫌そうな声。
運転席から笑い声が聞こえる。
「もう少し、優しく言えよ」
「黙れ」
クスクス笑いながら愛麗の彼氏が乗るように促してくる。既に愛麗は助手席に乗っていた。
(私待ち、ね)
心の中でため息をついてから私は、車に乗り込んだ。
「お邪魔、します」
バタンと閉まったドアを確認してから車が走り出す。
「あ、俺らの自己紹介まだだったね。俺は、優。んで後ろの無愛想な奴が疾風(ハヤテ)」
よろしくとにこやかに笑う人と私の隣の人は知り合いとはまるで思えない、正反対な二人。
私達と一緒。
小さくため息をついてから、私は車の窓から見える景色を眺める。
すると、突然肩に重たいものがのし掛かってきた。
びっくりして恐る恐る目だけで確認すると、黒と、白金の髪の疾風さんの頭が肩に乗っかっていた。
「!」
「眠い、着いたら起こせ」
私を見ることなく吐き捨てた疾風さんは、あっという間に夢の中。
(おいおいおい……!!)
ちょっと待ってよ、初対面で会話らしい会話も交わしていないのにいきなり人の肩で寝るなんて、良い度胸してる。
(………っあれ、?)