熱に堕ちて
蒼鳳side
「…おい、お前隣の部屋に住んでるらしいが本当に何も事情は知らないのか?」
教授にそう言われ、3ヶ月も大学に来ていない仁海のことを聞かれた。
「…さぁ、知りません。連絡も繋がらなかったし。」
蒼鳳は仁海の部屋のインターホンを何度も鳴らしているが出てきてはくれない。
おそらく外出は一切していないだろう。
だがベランダから見ると明かりは付いているようだしテレビの音も少し聞こえるし、動く影もたまにだがレースカーテン越しにうっすら見える。洗濯物も蒼鳳が大学やバイトに行ってる間に干されていた。
蒼鳳は毎日それを確認しないとやっていけなかった。
はぁ…俺はもう我慢の限界だ。
なんでアイツのせいでお前が大学に行けなくなるんだよ。
(今仁海は部屋にいるな…よし)
バーン!!
ベランダの隔て板が勢いよく倒れた。
そしてすぐに仁海がベランダの窓を開けて出てきた。
「…な、なにしてんの?」
「やっと捕まえた。お願いだから一緒に大学に行こう。」
「…元々明日からちゃんと行くつもりだよ。大学行ったらあの人の顔嫌でも見るじゃん?んで私のことだから見たら…なんかこう、色々なものが抑えられなくなっちゃうから。けどもう大丈夫。今日嬉しいことあったからもう行けるよ。」
「よくわからねーけど…大丈夫ならいいよ…明日は11時待ち合わせでいいか?」
「あぁ、ごめん。もう自転車には乗らないから。先に行ってて。」
「え、なんで?」
「そろそろやめなきゃなーって思って!必ず行くから心配しないで。」
(おせーなー…まだ仁海来てないじゃん…)
「おはよ!蒼鳳。ごめーん遅刻したw」
「あ、おはよ」
俺って重症だ。
もう例え何をしでかしても仁海がこの世で一番可愛く見えて仕方がない。
守りたい。
だから、おはようのたった一言の挨拶が幸せ過ぎるんだ。
「…仁海!今日俺らバイト無いからどっか寄らねぇ?」
「うん!ちょっと待ってて。トイレ行っていい?お腹痛いから長くなっちゃうけど。」
「わかったよ。1時間くらい?」
「ばーか!」
ははっ
やばっ久しぶりのデート(?)だー!
あぁもう、嬉しい。トイレの前で待ってやろう。驚くかも。
(…しかしもう15分経ってるぞ?アイツ大丈夫か?)
「…蒼鳳?何してんだよ女子トイレの前でw変態か?」
「優希かよだまれ。いやー、仁海待ってんだよ。お腹痛いっつってたけど、それにしてもおせーから心配してたとこ。」
「水元ならさっき階段ですれ違ったけど。確か屋上行ったと思う。まだいるかわかんねーけとな。」
(…屋上?何してんだあいつ?)
蒼鳳は急いで屋上に向かった。
あの男がいた。
心のどこかで仁海は簡単には諦めないのではないかと不安だった。
何やら2人とも深刻な表情で話をしていた。
蒼鳳は今すぐ割って入りたかったが一旦冷静になって、盗み聞きすることにした。
アイツの声が聞こえる。
「んだよ…こんなことまでしないでくれよ…あんだけピル飲んどけって言ったのに…お前そろそろ怖ーよ…やっと今の彼女のこと大事に出来ると思ったのに…」
仁海の目は涙目で切なそうな気がした。
「俺がすんなり責任取って父親になるって言うと思うか!?」
(仁海が言ってた嬉しいことって…)
蒼鳳は気分が悪くなり立っていられなくなった。