熱に堕ちて
仁海side


自分がどれだけ馬鹿なことをしているか頭ではわかっている。

貴方なら助けてくれると思っていた。


そしてまた

好きになってくれることもあるかもしれないと。

そう勝手に都合よく妄想していた。

この時初めて思い知った。

私の隣にいてくれる人は泳斗じゃないんだ。

涙も出ない。

感情を失ったみたい。

どうなってもいいや。

そういえば両親も病気で私を置いていった。

私の大切な人は私を置いて遠くへ行く人ばかりだから。

もう誰も好きじゃない。


(…大学辞めようかな、あともう少しで卒業ではあるけど
またしばらく大学行ってないし今から行ったって一緒だもん…)



…ピーンポーン


(…誰?)
除き穴で見てみると蒼鳳が立っていた。
あれ以来会ってこないから忘れられているかと思っていた。
何か言われる…

「…は~い」
「…久しぶり、仁海」
「久しぶり…」
「少し落ち着いたか?」
「…え、あ、うん…」
「なら今からデート行こうぜ。」
「……え?」
「久しぶりに2人でどっか行きたいなと思ってさ、話したいこともあるし。お前の好きな所連れていってやる!よし、さっさと着替えてこい!」

…な、なんなの唐突に…
まぁこの人にNOは通用しない。正直少し面倒臭いけど。

着替え終わって家を出ると手を繋いで引っ張っていってくれた。
手なんて繋いだの小学校低学年以来かな。
懐かしいな。
確かあの頃は私の方が蒼鳳の手を引っ張っていたな。


蒼鳳はまだおろしていないよな?と確認だけしたあと、そのことは特に喋らずにたわいもない話ばかりしていた。



「…わ、水族館久しぶりだ…」

中学の時、おばあちゃんと行ったのが最後だった。
高校の修学旅行でも水族館に行くはずだったんだけど、泳斗は見せ物にされている生き物を見ることが嫌いだったから泳斗だけ水族館には来てなかったな。
デートでも行くことは無かったし。

「…蒼鳳らしいね…水族館を選ぶところ。…なんか…ありがと。」
「…だって俺、お前らがいちいちどこに行ったとか把握してからなw」
「心配性だよね」
「仁海がこうさせたんだー!」
そう言って頭をわしゃわしゃされた。



すっかり暗くなり観覧車がライトアップされていた。

「…あー、なんか久しぶりに楽しかった。てかもう外暗いねー!」
「…なぁ、観覧車乗ってもいいか?」
「1人で?」
「なんでだよw…二人っきりになりたいから」
少しだけ頬を赤らめていた。

「いいよ」

思い出した。

あの人めんどくさい人だったな。

高所恐怖症で観覧車に乗ることもなかった。

付き合ってる時どこに行ってたっけ。

誕生日とか記念日のイベント以外、家ばっかり行っていた気がする。

仁海のこと好きだから抱きたいって。

馬鹿みたいに何度も体も心も委ねていた。





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