王族の婚姻をなんだと思っていますか!
すると、近衛兵の馬が二手にわかれて、その間から、どこかのんきな声が聞こえた。

「こんにちは、ノーラ」

キラキラ金髪を見た瞬間、思わずあんぐりと口を開く。

「お、王弟殿下?」

「わざわざ城に散歩……というわけでは無さそうですね?」

彼は近くまでくると笑顔で馬から降りて、私の手もとのバスケットに視線を落とし、それから固まってしまっている伯爵家の次男坊たちを静かに眺める。

そして彼らの腕に巻かれた腕章を見つけると、首を傾げた。

「その腕章は……新しい図書司書ですか。あなたたちの持ち場は王宮図書館のはずなのに、おかしいですね。今は、間違いなく職務中だと思いますが」

無表情だけど、鋭く吐き出された言葉に、伯爵家の次男坊は口の中でなにか言い訳を呟いている。

「……持ち場に戻りなさい。後で館長に私のところへ来るように伝言を頼みます」

冷ややかに彼がそう言うなり、次男坊たちは馬に拍車を入れると、逃げるように去っていった。

その後ろ姿を、ウォル殿下はただただ静かに見送っているんだけど……。

なんだろう。この冷え冷えとした冷気は。

空気が重く、寒い。

思わず腕を抱いたら、ウォル殿下がくるりと振り向き、途端に心配そうな表情をする。

「顔色が悪いです。大丈夫でしたか」

暖かみさすら感じる、優しい声音に瞬きを返した。

……この落差はなにっ⁉

いつものウォル殿下ではあるんだけど、そうなんだろうけど、じゃあ、さっきまでの彼はなんだったの?

凍りつくかと思ったよ!
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