王族の婚姻をなんだと思っていますか!
「まだまだ若いもんに負けるワシではなかったんだがな……」

「奢りは身を滅ぼすって、母上にいつも言われてるでしょ! 言いつけるんだからね!」

カチャンと茶器を置くと、父上はオロオロと慌てている。

「そ、それはやめれくれんか? エリーが怒ると、手がつけられんのだ」

「怒られるようなことをしてるって自覚はあるんだ」

呆れて溜め息をつくと、父上は唇を尖らせる。それを見て、ウォル殿下は吹き出した。

「侯爵家の家族は仲がよいとは聞いていましたが、本当のようですね」

かろうじて笑いを堪えているウォル殿下を横目に、私も苦笑いを浮かべる。

まぁ、結婚に政治とかが絡むことが多いのが貴族だけど、うちの両親は恋愛結婚だったから……。

毎日、花を持って現れていたっていう父上は想像もつかないけど、たまに母上がのろけてくれるから知ってる。

だから今でも父上は、母上にとことん弱いんだ。

そして、未だに差し出されたままの白い封筒に、力なく肩を落とした。

「お誘いは嬉しいのですが、私の社交界での評判が……殿下のご迷惑になりますから」

たおやかで優しい貴婦人がもてはやされるのが世の常だ。

社交界でとにかく嫌煙されている私が隣にいては、ウォル殿下の趣味が疑われるんじゃないかな。
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