王族の婚姻をなんだと思っていますか!
そりゃ、あのぼんくら次男坊を投げ飛ばしたのは悪かったけど、後悔はしてない。

でも……誰だって、蔑みや忌避の視線で見られるのは嫌でしょう?

「ノーラ」

「はい?」

優しく呼ばれて顔を上げると、ウォル殿下と目が合った。

静かで穏やかな凪ぎを思わせる青い瞳。

合わさった視線の中で、ふっと微笑まれた気がする。

「大丈夫ですよ。騒がれるかもしれませんが、露骨に文句を言う輩はいないでしょう。遠くからなにか言われても、そんなものは無視してしまいなさい」

「ですが……」

それじゃあ、隣にいるウォル殿下に悪いと思う。

矢面に立つのは、この場合私だけじゃないもん。

「まぁ、これもひとつの戦ですよ。いきさつは噂でしか存じませんが、私を利用しなさい。表だって“王弟”の連れを悪く言う輩もいませんでしょうし、案外、人の表と裏がみれて楽しめると思います」

どこか人の悪そうな笑みを浮かべたウォル殿下にキョトンとする。

「よく……舞踏会を、女の戦場と称する人はいるけれど、男性からそんな意見が出るとは思いませんでした」

「きらびやかさを競うだけならそうかもしれませんが、情報戦の戦場でもあります。まして、今回は王女の誕生日ですから、近隣の国の賓客もいますしね」
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