王族の婚姻をなんだと思っていますか!
暖められた部屋の空気が、冷たい外気と混じりあって一気に冬になった。

なにをしたいんだあなたは。びっくりして思わず瞬きをする。

「ウォル殿下? あの?」

「ノーラ、外は綺麗な月夜ですよ」

「月……?」

窓の外、振り返った彼の髪色を照らし出す光。

テラスへと近づいて、晴れ渡った夜空を見上げると、煌々と真っ白い月が輝いていた。

「本当に綺麗……。満月だったんですのね」

「最近は雪夜が多かったですが、今宵はよく見えますね」

「あの夜とは、全く違いますわね」

思い浮かべたのは、やっぱりあの猛吹雪の夜のこと。

お互いに顔を見合わせると、小さく笑いあった。

こうしてみると、今夜はとても穏やかだ。

私たちがさっきまでいたホールの窓も開いているのか、楽士の音楽まで聞こえてくるくらい静かで、どこか落ち着く。

そうして考えてみたら、もしかしてあの夜は、私たちにとって“生きるか死ぬかの瀬戸際”だったんじゃないかなって気がついた。

人は命の危険に晒されると、子孫を残そうという本能が働くって……なにかの本で読んだことがある。

それならウォル殿下の唐突さも、妙に納得しちゃうんだけど。

ある意味で極限状態の場で出会って、なおかつ私はそこそこ危険なことでも生き残れそうって思われているのなら、ウォル殿下は『子孫残さなきゃ』って、思っちゃっただけじゃん。

わかってみるとなんとも情けない。
< 51 / 85 >

この作品をシェア

pagetop