王族の婚姻をなんだと思っていますか!
「……ごちそうさまでした。私もそろそろおいとましなくては」

立ち上がりかけた私の手を、ウォル殿下が掴んで引き留める。

見下ろすと、目を細めて子供のような微笑みが返ってきた。

「まだいいでしょう? 午後からの執務はないんです。私は、もう少しあなたといたい」

乞うように言われて、動きを止める。どうしようか迷ってしまった。

……どうせ屋敷に戻っても、することがなくて編み物にいそしむだけだし。

そんな理由を言い訳に、そっと座り直してから、ウォル殿下に向き直る。

「あまり遅くなると、母に心配されてしまいますわ」

「使いを出しておきましょう。すでに出ている気もしますが」

「……どこでそんな根回しがされてるんですか」

思わず胡乱な目になって、ウォル殿下を見据えるけど、彼は苦笑するのみで答えてくれない。

王宮は、きっと摩訶不思議なところなんだろうねぇ。

「誰もおりませんし、私がお茶を淹れましょうか?」

「お茶もいいですが、少し楽になさったらいかがです? ずっと緊張されていたでしょう?」

「殿下とふたりきりでも緊張します」

「そうやって言えるだけ、あなたは緊張なさってませんよ。少なくとも、兄がいた時よりは」

眉を上げながら言われて考えてみる。
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