王族の婚姻をなんだと思っていますか!
確かに、国王夫妻がいた時よりはリラックスしているかもしれない。

「ウォル殿下に、少し慣れてきただけですわ」

つんとして顔を逸らすと、その殿下が無言で手を伸ばしてきたからギョッとして固まる。

温かい手のひらがやんわりと頬に触れた。

「それはいいですね。どんどん慣れていってください。いつか、私が隣にいるのが普通になってくださると嬉しい」

どこまでも優しげに言われて、体温が急上昇していく。

「で、殿下は、どうして断りもなく、簡単に女性の身体に触れるんですか!」

「断ったら逃げるでしょう?」

それは間違いないけどもっ!

「少し考えればわかりますよ。猫を被って普通の令嬢を装っている時ならともかく、“触れてもいいですか”などと聞いた瞬間、ノーラは素早く逃げてから“いいえ”と言うでしょう」

じわりと黒く感じる笑みを見せながら、ウォル殿下はお行儀悪く、片ひざを立てて座り直した。

その姿を眺めながら、私は首を傾げる。

「でも、ウォル殿下は本気ではないでしょう?」

だって、あの父上に模擬戦とはいえ、試合に勝ってるんだもん、間違いなく強いはずだよ。

実力も上だし、きっと頭の回転も早そう。

じわじわと囲いを作られてるのはわかるけど、私が簡単にかわしてこられたのは、いつだってウォル殿下が“本気”ではないからだ。
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