王族の婚姻をなんだと思っていますか!
しばらく黙って見つめあっていたら、彼がふっと目を細めて笑った。

「私が本気ではないと、あなたは気づいていたのですね」

「そうですね。毎回毎回、逃がしてくださっているのには気がついておりました」

あの舞踏会の夜だって、抱きしめられはしたけれど、なんのかんのと言いながら、きっちり何事もなく屋敷まで送ってくれたし……。

ウォル殿下もさ、いい年齢なんだから私なんかに構っていないで、ちゃんとお妃様を探すべきだと思うんだよね。

何が目的なんだろうと考えたら、音もなくウォル殿下が私に近寄ってきていた。

「……っ⁉」

びっくりして目を丸くする私と、微笑みを浮かべたままの殿下。

「あなたは、男の本気を甘く見ていませんか?」

低く響く声。微笑んでいるけれど、笑っていない瞳。

深い海みたいな青い瞳の色は、真冬の空のように薄くも見える。

冷たいほどに鋭くて、だけど、ゾクゾクとしながらも、身体は熱くなってくるのはどうして?

「本気であなたを手に入れてようとしても、怖がらないでいてくださいますか?」

「……ウォル殿下?」

「私が本気になったら、あなたに逃げ場はありませんよ?」

今だって、少ししか逃げ場はないじゃないか。

ほんのちょっと、あなたは逃げ込める場所を用意してくれているだけで、それ以上は遠く離れないようにしてるくせに。

いろいろ諦めてくれない限り、私は解放されないんじゃないかと感じるんですけど。
< 62 / 85 >

この作品をシェア

pagetop