Moonlit Nightmare
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「どうでした?結構、楽しかったでしょ」
「………最後さえなければね…」
部屋に戻って、ニコニコと笑う彼に、げっそりとしながら答える。
確かに『落ちた』くせに、驚くことに振動はなかった。
それは多分、私を考慮してのこと。
だけど、いきなり落ちられたら、誰だって心臓が萎縮すると思うのよね。
…私を含めて。
「心臓が止まるかと思ったわ…」
「あはは〜
でも、楽しかったでしょう?」
どきりと、縮んだ心臓が跳ねる。
図星だった。
なんだかんだ言っても結局、楽しかったし。
あの帰り方は軽くトラウマだけど、またあの夜景を見たいとも思う。
………癪だわ、とても。
唇を尖らせて、頷くと、ヨハンは「素直じゃないですね」なんて言って、やっぱり笑った。
「じゃあ、リンネ。
また明日、夜に迎えに来ましょうか?」
「えっ」
顔を上げると、ヨハンはもう既にバルコニーの手すりに登っていて。
…もう、帰ってしまうの。
目で訴えて、伏せる。
「明日…。明日は…
私に、会いに来て」
ぽつりとこぼした言葉に、彼は一体どんな表情をしたのか……。
「はい、その願い、承りました」
その言葉に再び顔を上げた時には、
スワロウテイルの少年の姿は、更けきった夜の闇の中に、溶け込んでしまっていた。