Moonlit Nightmare



♦︎☆♦︎




「どうでした?結構、楽しかったでしょ」

「………最後さえなければね…」



部屋に戻って、ニコニコと笑う彼に、げっそりとしながら答える。

確かに『落ちた』くせに、驚くことに振動はなかった。


それは多分、私を考慮してのこと。

だけど、いきなり落ちられたら、誰だって心臓が萎縮すると思うのよね。
…私を含めて。



「心臓が止まるかと思ったわ…」

「あはは〜
でも、楽しかったでしょう?」



どきりと、縮んだ心臓が跳ねる。

図星だった。


なんだかんだ言っても結局、楽しかったし。
あの帰り方は軽くトラウマだけど、またあの夜景を見たいとも思う。



………癪だわ、とても。


唇を尖らせて、頷くと、ヨハンは「素直じゃないですね」なんて言って、やっぱり笑った。


「じゃあ、リンネ。
また明日、夜に迎えに来ましょうか?」

「えっ」


顔を上げると、ヨハンはもう既にバルコニーの手すりに登っていて。




…もう、帰ってしまうの。



目で訴えて、伏せる。



「明日…。明日は…

私に、会いに来て」



ぽつりとこぼした言葉に、彼は一体どんな表情をしたのか……。


「はい、その願い、承りました」



その言葉に再び顔を上げた時には、



スワロウテイルの少年の姿は、更けきった夜の闇の中に、溶け込んでしまっていた。










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