Moonlit Nightmare
「っでも…!!」
食い下がる私を口に指を当てて、ヨハンは「それに、」と続ける。
「それにね、リンネ。
僕はただの一死神で、代わりなんて沢山いる。
でも、リンネはリンネ以外に代われないんですよ。あなたが生き続ける先に、あなたに救われる人は必ずいます。
だから、生きてください」
「………っ、」
違う、そんなの。
私は、あなたがいなくちゃ生きていけない。
あなたのいない世界じゃ、生きる意味なんてない。
あなたの代わりになる人なんて、いないわ。
それなのに。
「……どうして………?」
ポツリとこぼした言葉に、ヨハンはふわりと笑って、慈しむように唇をなぞる。
「……どうしてなんでしょうね…?
僕だってこの長い死神の生の中で、こんな気持ちは初めてです。
ただどうしても、あなただけは奪りたくなかった。
あなたには、笑っていて欲しかったんです」
するりと指を離して、ヨハンは懐から黒い手帳を取り出す。
「……東條 凛音。あなたの寿命は現時刻を持って、終了とします。
…代わりに、僕の命をもらって。
そして、生きて。
生きて……どうか、笑っていて。」
「嫌!待って……!!ヨハ……っ、」
最後に感じたのは、頬に触れる冷たい指先と、
唇に灯る熱。
途端に世界がバチンと弾けて。
私の部屋には、ただ黒い羽根が1枚、ひらりと舞っていた。