Moonlit Nightmare



「っでも…!!」

食い下がる私を口に指を当てて、ヨハンは「それに、」と続ける。


「それにね、リンネ。
僕はただの一死神で、代わりなんて沢山いる。
でも、リンネはリンネ以外に代われないんですよ。あなたが生き続ける先に、あなたに救われる人は必ずいます。
だから、生きてください」

「………っ、」



違う、そんなの。
私は、あなたがいなくちゃ生きていけない。
あなたのいない世界じゃ、生きる意味なんてない。
あなたの代わりになる人なんて、いないわ。

それなのに。

「……どうして………?」


ポツリとこぼした言葉に、ヨハンはふわりと笑って、慈しむように唇をなぞる。


「……どうしてなんでしょうね…?
僕だってこの長い死神の生の中で、こんな気持ちは初めてです。
ただどうしても、あなただけは奪りたくなかった。

あなたには、笑っていて欲しかったんです」


するりと指を離して、ヨハンは懐から黒い手帳を取り出す。



「……東條 凛音。あなたの寿命は現時刻を持って、終了とします。
…代わりに、僕の命をもらって。

そして、生きて。
生きて……どうか、笑っていて。」


「嫌!待って……!!ヨハ……っ、」


最後に感じたのは、頬に触れる冷たい指先と、
唇に灯る熱。


途端に世界がバチンと弾けて。




私の部屋には、ただ黒い羽根が1枚、ひらりと舞っていた。







< 33 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop