硝子の靴に口づけを
「・・・例えば?」
「愛を囁くとか、ね。」
一歩前を歩いていた遥が、振り向きながら答えた。
笑っていた。
でも泣きそうだった。
「不器用な人もいるもんだね。」
「そんなもんだよ、人なんて。」
「そもそも人かな。」
「例えば?」
「吸血鬼、とか。」
「かもね。」
二人、顔を見合わせ声を上げた。
きっと昨日会ったのは吸血鬼だったのかもしれない。
だって血を吸ってしまえば、その人も吸血鬼になってしまうから。
愛する人の血を渇望して、それでも吸血鬼の心より愛する心が勝ってしまった。
ならばと甲に唇寄せて、愛おしそうに噛みついた。
それを愛と受け取ってしまった私は、もしかしたらもう既に手遅れなのかもしれない。
「私、多分今日もコンビニに行くと思う。」
「・・・・」
「深夜2時に、いつものコンビニ。」
「じゃあ俺も、」
「ダメ。」
「なんで?」
「だって私は吸血鬼に会いに行くから。」
「・・・どうなってもしらねぇぞ?」
「ふん、上等。」
そんな不器用な吸血鬼に教えてやりたい。
もっと甘い愛の伝え方。
深夜2時に、路地裏で。
月灯が陰るその瞬間。
思いっきり抱きしめて囁いてやるんだ。
「不器用さんめ、大好きだけど。」
end