私の恋した誘拐犯【完】
「そっか」



そんな私を、目を細めて優しい顔で見る洋くんは、少し寂しげな顔をしていた。



まるで秋のように。



「あ、ちーちゃん、もう時間ないよ。早くしないと」



「わ、ほんとだ!」



と、そんな感傷に浸ってる暇はなく、時間が迫る。



すっかり衣替えをした制服に腕を通し、玄関で靴を履くと、洋くんはいつものように私に手を振った。



「行ってらっしゃい」



「行ってきまーす!」



ヒラヒラ、とお互いに振る手は、玄関の扉が閉まり見えなくなる。
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