私の恋した誘拐犯【完】
洋くんは一度、小さく溜め息を零すと振り向いて、洋くんの背中に当てていた私の両手を握った。



「何もない。何もないから、今日はこのまま寝て」



子供に言い聞かせるように優しい声で。



なだめるように、ゆっくりとした口調で。



「うん」



頷くと、洋くんは再び背を向けた。



その背に、触れることなく



私は静かに目を閉じた。
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