私の恋した誘拐犯【完】
『ハハハ、なんだい洋平くん。そんな冗談も言えるようになったのか君は』



パパの高らかな笑い声。



なにか楽しいことがあったのかな?なんて私は少しワクワクして。



そんな会話の残酷さなんて、そのときの私は知らずに。



『だって千織ちゃん、あんなに無邪気に笑えるじゃないですか』



視線を感じて見上げたとき、そこには優しい温もりがあって。



何も知らないはずの私の目に涙が溜まったのは、きっとお兄さんが心で何かを語ったからだと思う。



『無邪気に笑うことが出来のいい娘だって言うのか君は。面白いことを言う』



そのあと、パパがお兄さんに耳打ちしてるのを本棚の影から見た。



それが



私に残っているパパとの最後の記憶。
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