私の恋した誘拐犯【完】
歯を食いしばり上を向く。



真っ暗な空から、ふわふわと舞い降りる雪。



冷え切った頰に温かな雫が流れた。



「…ずるいだろ…今のは…」



呟く声が宙に舞う。



誰に拾われることもなく、宙を舞う。



報われることのない想いを背負い、俺はその家に背を向けた。



幸せになってほしいなんて



口では言えても心は分かってる。



冷え切った雪が、頰に触れて溶けていった。
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