私の恋した誘拐犯【完】
エンジン音が遠ざかり、辺りは虫の声だけになった。



大したことではないかもしれないけれど、予想もしていなかった事態に心臓が少し、ドキドキしている。



「あの子、たくちゃんって言うの?」



「へ?…あ、うん、綾瀬拓巳くんだよ」



「そう」と先を歩く洋くんは、どこか厳かな雰囲気があった。



なんだろう、また。



また、この感じ。



「洋くん、なんかあったの?」



「え?なんで?」



「え、あ、いや…なんか様子が変かなって」



アハハ、と苦笑いする私に、洋くんは首を振る。
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