asagao
「また会えんくてね」
「今回はどれくらい?」
「3ヶ月」
涼は「3ヶ月…」と呟いて、コーヒーを一口飲んだ。
遠恋経験がある分、怒ることも納得することもでけへんから言葉が見つからんのやろう。
でも、何かを言うてほしいわけじゃないし励ましてほしいわけでもない。
遠恋になるってわかってて繋げてきた恋。
それを理解して頑張ろうって二人で約束遠恋したからこうして今まで気持ちを強く持ってきた。
でも、それも今は辛く感じる。
「また忙しいみたい。でも謙吾がやりたかったことやから、…うん」
だから我慢してるって言うのはなんか自分勝手な言い分みたいで言えんかった。
あたしのことが好きなら謙吾も我慢してくれてるはず。
それをあたしだけが我慢してるっていうのは間違ってる気がするし、それが当然であることが遠恋なんやと思ったから言葉にできんかった。
「電話はいつした?」
「昨日の夜」
あたしの返事に涼はちょっと考えて、「もしかして今日会う予定やった?」と聞いてくる。
そうやけど、と答えると満面の笑みでこう言うた。
「謙吾くん、絶対会いにくると思う!」
自信満々に言うから何を根拠に、と思ったけど、涼の予感なら信じるしかない。
それに大好きな涼が言うんやからそれを信じたくなる。
不意に涼の携帯が鳴って、バッグから取り出す涼の表情が歪んだ。
「誰?」
「…高成」
渋々携帯を耳に当てると、何を聞いたのか苦笑しながら「そうなんや」と笑った。
「今近くのカフェにいてるから、もう少ししたら帰るよ」と電話を切った。
「どうした?」
「千秋が泣きやまんねんて。お母さんも高成も参ってるから帰ってきてほしいって」
苦笑しながら言うけど、帰らんくていいの?って心配になる。
でもあの高成くんが子育てに奮闘してる姿を想像するだけでなんかウケる。
「あたしはもう満足やから帰ってあげたら?」
「大丈夫。帰らんくても、すぐ来るから」
今帰ったらすれ違いになるし、と言うてたら目の前に車が止まった。
それを見て「ほら」と笑うと運転席から男の人が出てきた。
それと同時に涼が立ち上がって、その間に男の人は後部座席のドアを開けて泣く子供をタイミングよく傍にきた涼に預けた。
キャップを深く被ってるけど、あれば紛れもなく涼の旦那である有名ボーカリストのTAKA。
涼が子供を抱えてあやしながらもう一方の手で高成くんの腕を撫でる。
子供を二人あやしてるように見えて思わず苦笑すると高成くんと目が合った。
ペコリと頭を下げると涼もこっちを見て車を指差し、そしてあたしを指差した。
数回首を縦に振る高成くんは涼が車に乗ったのを確認すると、今度はあたしの元へ歩いてきた。
なに?!と思いながら固まってると、さっきまで涼が座ってた場所に座った。
「久しぶり」
キャップを少しあげて目を合わせるとそう言うた。
相変わらず男前な高成くんが友達に話しかけるみたいに軽くあたしに話しかけてる。
別に初対面でもないし、結婚式のときにも会ったしLIVEでも見てるけど、この至近距離は初めてで緊張する。
声が裏返りながらも「久しぶり」と返した。
「俺、圭ちゃんをこんなに間近で見るの初めてかも」
そう言いながら笑う高成くんがあたしの名前を呼んでドキリとした。
無邪気な顔で笑うからびっくりした。
「あたしも一緒だから」と言うと二人で笑い合った。